先週の火曜日が最初だ。編集者と晩飯を食い、シガーバーで酒を３、４杯飲み、家に戻ってのんべんだらりとしていたら、急に寒気に襲われた。発熱の前兆である。ああ、風邪を引いたか、インフルエンザでなければいいのだがとすぐにベッドに潜り込み、翌日も寝て過ごした。翌々日には熱も下がり、身体は怠かったのだが、これ以上仕事を休むわけにもいかず、病身に鞭打って小説の執筆を再開した。
　また、夜になると寒気に襲われた。９度前後の熱が出て、布団にくるまり、大量の汗をかいて翌日目覚めると、熱は下がっている。それで仕事をする。また、夜になると熱があがりはじめる。
　こんなことを数日繰り返して、さすがにこれはただの風邪ではないな、かといってインフルエンザでもなさそうだし、おれの身体はどうなってしまったのだろうと考えざるをえなくなった。
　それでも病院に行こうとしなかったのは、しょっちゅう風邪を引いては熱を出すという虚弱体質のため、高を括っていいたからだろうか。発熱には慣れているのだ。
　しかし、金曜の真夜中に熱が９度を軽く突破したときはさすがに慌てた。いつもの経過からいえば、熱は下がっていくはずなのだ。熱が上がっていくのはおかしい。翌土曜は再びベッドで寝続け、月曜になっても熱が下がらないようならこれはもう病院に行くしかないなと心に決めた。
　が、遅すぎたのだ。
　日曜の夜になると、左胸が痛みはじめた。心臓ではない。肺だ。痛みが引かず、不安になり、真夜中の３時に東京医大の救急外来に電話をかけた。しかし、医者は暗い声でこちらの病状を聞き、今、こっちに来てもなにもできないので月曜の午前に病院に来なさいというだけ。くそったれ。患者の苦しみをなんとかしてやろうという情熱の欠片も感じられない。しょうがないので痛みを我慢し、月曜になって東京医大ではなく、別の病院に行った。
　検査やらなんやらであちこちに行かされ、５時間後に「肺炎です」という診断を下された時には、わたしはもう疲労困憊だった。あれはもう、本当に、患者に死ねといっているようなものですな。
　まあ、とにかく、そういうわけで肺炎だ。医者は入院を勧めたが、なんだかんだといいわけして自宅療養で済ませることにしてもらった。ただし、一週間は絶対安静にしていること。はいはい。いわれなくても仕事をする気力も体力もありません。
　というわけで、作家になって初めて「作者急病のため、連載はお休みさせていただきます」といったようなお断りの文章を連載雑誌に載せてもらうことになったのだ。
　一度やってみてえなあと不埒なことを考えたことは何度もあったが、実際にやってみると、これは辛い。いったいどれだけの人間に迷惑をかけたのだろうと考えると、気が滅入る。
　しかしやはり、連載５本掛け持ちというのはこういうことなのだな。気持ちが充実していて、やり遂げられると思っていたし、実際、後、１、２ヶ月頑張れば、ふたつの連載が終わるはずだった。それなのに身体が先に音をあげてしまった。身体がだめになると気力も挫けてしまう。とにかく、今週はしっかり休んで、体力回復に努めるのがわたしの義務だろう。
　さすがに肺が痛むので、丸三日禁煙している。このまま煙草をやめたらどうだと自分に問うてみたら（葉巻は別だぞ、もちろん）、無理だという答えが返ってきた。
　そういうもんだね。

（2005年3月3日掲載）