Hase's Note...


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「移住宣言」

 作家になってこれほど忙しいことはなかったというほど忙しいというのに、スカパー!がチケットを用意してくれたというので(用意しろと脅したのだが)二泊四日でドイツまで行って来てしまった。
 ああ。決勝戦が面白いことなど滅多にないのだということはわかっている。わかっていながら行ってしまうこの愚かさよ。結局はくたびれただけではないか。
 UEFA杯の決勝戦はまるで大人と子供の戦いだったが(もちろんバレンシアが大人、だ)。CLの決勝も同じだった。数的優位を作ることを前提にした守備、そこからのカウンター。ポルトの戦術は徹底され、洗練されていた。それに比べてモナコは……ジュリの早い時間での負傷が痛かったとはいえ、もう少し工夫が欲しいぜよ。FW3枚並べるより、モリエンテスの1トップで2列目からどんどこどんどこ飛び込んでくる方が、ポルトの守備陣も嫌だったろう。デシャンの経験のなさが出たのか、それとも中盤にタレントが少ないからか。ああ、しかし眠たい試合だった。こんな試合のために、おれはくたびれているのか、なにをしているのだ。試合中思っていたのはそのことばかり。あるいは、昨シーズンの決勝に比べれば百倍面白い、と自分に言い聞かせていただけか。
 これがイタリアやスペインなら試合はクソでもその後に旨い食事があるのだが、ここはドイツ。スタディアムの外で食ったサルシッチャ(一種のソーセージ)のサンドイッチは思いの外美味だったし、泊まったホテルのレストランの料理は予想外にいけたが、だからといって食事が楽しいわけでもない。
 この文章は帰国したその日に書いているのだが(疲れすぎていて小説が書けないのだ)、二重の時差ぼけで肉体が悲鳴をあげている。うーん。馬鹿にもほどがある。
 しかし、デュッセルドルフの街を(ゲルゼンキルヘンはホテルが取れなかった)たった二日だがぶらぶらして、つらつらと思った。とにかく、移住しよう、日本を出よう、と。
 以前から漠然と移住については考えていたし、その理由は少なくとも今の政府に税金を払うのは腹立たしいということだったのだが、この数ヶ月は、この国、あるいは日本人という民族に対する嫌悪感が強くなっていることに端を発して、移住に対する気持ちがますます強くなっている。
 まあ、要するに、イラクで人質になった3人に対するくだらない「自己責任論」であったり、拉致被害者の「家族会」に対するケツの穴の狭いバッシングだったり、そういうことがもうおれには耐えられないのだ。自分がそういうクズらと同じ「日本人」だということが嫌で嫌でしょうがなくなってきているのだ。勝手に国がはじめた「戦争」で民間人が犠牲になりかけたら、それを救うのは国の責任だろう。金がどれだけかかろうが、人がどれだけ動こうが、当たり前だ。それをまあ、馬鹿どもは、政府を批判するどころか尻馬に乗りやがる。
 小泉が選挙のために北朝鮮に行って、偉大なる将軍様に手玉に取られて帰ってきたのは明白なのに、そのだらしさなに憤慨するどころか、小泉に礼をいわんとはなにごとかと能なしのように喚き立てる。てめえの家族が拉致されていたとしたら、ということに考えが及ばない、考えられない。低脳の集まりだ。恥を知らぬ卑しい輩の集団だ。
 もうほんとにうんざりだ。以前から自民党政権とそれを支える人々にはうんざりさせらていたが、小泉が首相になってわたしはもう限界に達してしまった。あの厚顔無恥な嘘つきを、どうしておまえら、支持できるのだ?
 海外に移住すればこんなたわけたできごとが耳に入ってくることもない。そこが欧州なら、くたびれきった身体に鞭打って12時間も飛行機に乗り、サッカーを見に行くということもしないですむ。そこがスペインなら、わたしは多分気楽に生きられる。スペインが日本より百倍いい国だとはいわないし、日本以上に嫌なことも多い国だろう(まあ、スペインに限らないが)。それでも、日本人として日本に住んでいるよりは、少なくともわたし個人は癒される。パソコンと電話回線があれば、仕事は続けられるのだ。
 決めた。50歳になる前に移住する。ラ・コルーニャか、あるいはまだ訪れたことのないサン・セバスチャンか。
 どっちにしろ、この国はわたしの終の棲家にはなり得ない。

(2004年5月29日掲載)

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