金曜日の夜のことだ。散歩から戻り、床にうつぶせになって寝ようとしていたマージが、いきなり「ぎゃひふーん」という悲鳴をあげた。慌てて飛んでいくと、右前脚をぶら下げるようにして、ひんひんと情けない声を出している。
「やっちまったか……」
　呟きながら、マージの脚を取ると、さらに「きゃふほふーん」と悲鳴をあげる。おそらくは、寝るときに肩か肘をひねるかなにかしてしまったのだ。９歳になって、マージは関節が弱くなってきている。コラーゲン入りのサプリメントを飲ませたりといろいろやってはいるのだが、年に１、２度、脚のどこかに痛みを訴えるのだ。
　時間は午後１１時過ぎ。とりあえずかかりつけの獣医さんに電話をして様子を報告する。前にもらったまま残っている薬を飲ませて、その夜は様子を見ることになった。ただ単に脚をひねっただけならそれでいいが、もし骨肉腫かなにかだったら……去年の今ごろを思い出して、またもや気分がブルゥになった。
　マージが、わたしが動くところについてこようとするので、その夜は居間で、マージの横で眠りについた。背中が痛いが、マージのためならしかたがない。
　翌朝も、マージの脚の痛みは引かないようだったので、動物病院へ。マージは右前脚をつくたびに悲鳴をあげる。仕方がないので、マージの腹の下に両腕を突っこんで、持ち上げて運んだ。３３キロは重い。外は猛暑。泣きたくなった。
　レントゲンを撮ったりした結果、やはり寝るときにひねるかなにかして肩関節に炎症を起こしたのだろうという診察結果。痛みが引くまで薬を飲み、散歩を控えなさいと獣医さんはいう。いうは易し、行うは難し。なんとなれば、マージは決して家の中で用を足さないのだ。朝、夕、晩、小便とクソのためにマージを外に連れださなければならない。さすがに、散歩コースをマージを抱えたまま歩くことはできないので、マンションの備品である台車を使うことにした。それにしたって、動けないマージを台車まで運び、小便ポイント、大便ポイントでは、マージを台車から降ろし、また上げる、ということを繰り返さねばならない。
　台車に乗った大型犬は間抜けである。それ以上に、汗だくになって間抜けな大型犬を抱えては乗り降りさせるわたしも間抜けである。で、マージ。痛みのせいか、小便はするものの、うんこをしない。まったくしない。最後にうんこをたれてから２４時間以上経過しているのに、うんこしない。参った。都合、１０回ぐらいマージを台車から乗り降りさせたが、結局、マージはうんこをしやがらなかった。
　翌日は、両腕、背中、腰に激しい筋肉痛を感じるはめになった。はめになったにも関わらず、マージと来たら、昨日までの痛がり方が嘘でもあるかのように、散歩に連れていけとせがむのだ。
「おまえよぉ、脚痛いのどうなったんだよ？」
　そう毒づいても、マージは曇りのない無邪気な目でわたしを見上げて尻尾を振るだけだ。歩くときに多少前脚をかばう動作は見せるものの、もう、悲鳴はあげない。
　薬が効いたってことで、ゆるしてやるか。
　当然のことながら、その日、マージは山のようなうんこをたれた。片手では掴みきれないほどのうんこの山を、あなた、見たことありますか？　わたしは見ました。処理しました（号泣）。
　その後、２日ほど様子を見たが、マージはもう、脚さえかばわなくなった。なんだったんだよ、あの断末魔みたいな悲鳴はよ。
　やるせない思いを抱えながら、リーガのアルバセテ対バルセロナを見る。ライカールト監督による新生バルサ。大いに期待していたのだが、コクーのすんばらしいミドルシュートによる先制で諸手をあげて喜んだのだが……フエラとはいえ、２部からあがってきたばかりのアルバセテにけちょんけちょんにやられてやがんの。バルサの永遠のテーマである「美しいサッカー」なんて、９０分のうち、１０分あったかないか。
　ロナウジーニョはいいよ、そら。パトリックもサビオラも外せないから２トップだよね、当然。だけどよ、サイドアタッカーはどこにるんだよ？　なんだよ、あのズタボロのディフェンスラインはよ。ま、ディフェンスに関してはマドリーもいい勝負だが、攻撃力があっち１００なら、こっちは５０がいいところ。ＧＫのビクトルが当たってなかったら、完全な負け試合ですな。
　バルセロニスタの憂鬱は今シーズンも続きそう。勝てばいいってもんじゃないだろう、バルサはさ。

（2003年9月18日掲載）