Hase's Note...


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「謎 2003」

 くそ忙しい合間を縫って、山梨県にあるサントリー白州蒸留所に一泊二日で行ってきた。
 ご存じのむきもあるように、サントリーと日本推理作家協会は数年前から「ウィスキー&ミステリー」なるイベントを共同してやっておる。毎年、6人ほどの作家がサントリーの蒸留所(昨年までは山崎蒸留所だった)へ赴き、3種類のグレーン原酒、7種類のモルト原酒をを使ってオリジナルのブレンデッドウィスキーを造り、ブラインドテイスティングを経た後の投票でその年のベスト・ブレンデッドウィスキー『謎』を選び、数ヶ月の樽熟成を経させた後で一般にもその『謎』を販売する、というものだ。過去3年の名誉ブレンダーは、初回が大沢在昌、2回目が小池真理子、3回目が桐野夏生各氏だ。わたしは2回目に参加して、小池さんに僅差で破れた。
 この「ウィスキー&ミステリー」、通常なら、逢坂剛理事長、北方謙三前理事長、大沢在昌次次期理事長(たぶん)の3人がレギュラーで参加し、残りの3人はその時々で選択することになっていたのだが、今年は開催決定が遅れに遅れ、どうにもこうにもやりくりがつかなくなって「とにかく馳、おまえも来い」と断る間もなく強引に駆り出されてしまったわけだ、2回目にもかかわらず。
 2年前に山崎蒸留所を訪れた時のことは、このNOTEにも書いたかもしれん。とにかく、ウィスキーという酒の奥深さに感動し、数千、数万の原酒を組み合わせて常に一定の品質を持つブレンデッドウィスキーを生み出すブレンダーの能力に感嘆したのだ。サントリーといえば、こういっちゃ悪いが、わたしが酒を飲み始めた20年前には「まずいウィスキーを作るメーカー」という烙印が押されていて、わたしも金のないとき以外は日本のウィスキーならニッカしか飲まなかったというほどだったのだが、目から鱗、己の不明をただただ恥じるだけだった。いまのサントリーのウィスキーは凄いのよ。もちろん、ニッカも凄いんだけれど。
 とにかく、そういうわけで白州へ行った。面子は3馬鹿親父にわたし、それから福井晴敏君、紅一点の唯川恵さん。3馬鹿親父のうち二人は実は酒の味がわからないうつけなのでライバルからは除外。福井君は酒が異常に強いのは知っているが味覚の方は未確認。唯川女史は−−過去2年、女傑が栄冠に輝いているを見てもわかるとおり、油断ならない。
 無理強いされたとはいえ、行くからには勝利を目指すのみである。特にことあるごとに初代ブレンダーに輝いたという事実を自慢しまくるO沢A昌親父には煮え湯を飲ませたくてしかたがない(なに、初代ブレンダーといっても、だれもが右も左もわからない時に、たまたま勝ったというだけではないか)。
 わたしは普段は「ラガブリン」というシングルモルトを家で飲んでいる。アイラ島で作られるピーティでスモーキィ−−要するにむちゃくちゃ癖の強い酒だ。前回はその「ラガブリン」に似た癖の強いモルト原酒を大量に使った。こちとら素人ブレンダー、自分の嗜好以外に恃むものがない。今回も、自分の好みで行けば、癖の強いモルトを大量に使った癖の強いブレンドになるはずだったのだけれど、実は白州に赴くこと一週間前、わたしは別の仕事で金子達仁と共に山崎蒸留所を訪れていたのだ。
 そこでわたしはサントリーのチーフブレンダー、輿水精一さん(我々は彼を「神」と呼ぶ)に、もう一度ブレンデッドウィスキーのなんたるかを聞き、さらにはサントリーの銘酒「響」の30年ものを飲ませていただくという僥倖に恵まれた。市販で8万円、銀座や六本木のクラブに行けばおそらく30万。そんな酒、飲んだことないやね、普通。
「響」30年は、この世のものとは思えないほど甘美だった。なにも足さず、なにも引かず、口の中で調和し、喉をすぎて消えていく。ああ、これか。これが本当にうまいブレンデッドウィスキーなのか。経済力を不問にして、「響30年」と「ラガブリン15年」どちらを選ぶと問われれば、わたしはやはり「ラガブリン」を選んでしまうが、しかし「響」の上質なうまさを軽んじることもない。
 そうか、ブレンドするということは調和させるということなのか。わたしは山崎で悟りを開き、白州へ赴いた。わたしが負けるはずはなかったのである。
 罵りあいがあったり、足の引っ張りあいがあったり、酔ったK方K三が『夜霧のブルース』を繰り返し歌った挙げ句、最後はO沢A昌とデュエットしたり、ブレンドの最中に酔っぱらって舌が馬鹿になり、自分の作った酒の見分けさえつかなくなったり、経過はいろいろあったのだが、結果はわたしの優勝だった。
 勝つのは当然、とはいえ、嬉しかった。『不夜城』が賞をもらった時より嬉しかった。なにより嬉しかったのは、サントリーのプロ3人も投票に参加したのだが、神様・輿水チーフブレンダーがわたしのブレンドを選んでくれたことだ。3馬鹿親父たちの負け犬の遠吠えも、神様に選ばれた栄光を思えば右から左に抜けていく。
 わたしは勝者だ(馬鹿だね、おれも)。
 わたしがブレンドしたウィスキーは樽の中で熟成された後(後熟する、という)、今年の12月にボトリングされて『謎 2003』として一般に販売される。ついでにいえば、今回のブレンド大会に参加した6人によるトークショーも12月に予定されている(場所は六本木ヒルズだと)。詳細が決まれば、ここのウェブで紹介する。
 まあ、若い衆よ、おっさんたちよ、麗しき女性たちよ、ワインだ焼酎だとブームに踊らされて酒を飲むのもいいが(ワインも焼酎もうまいけどね)、ウィスキーの奥深さをわたしのブレンドした酒を飲んで味わいたまえよ。原価計算なんか考えずにブレンドしてるから、普通に市販したら1万円を軽く突破するようなウィスキーが格安で飲める。12月は酒屋へ向かえ。
 というわけで、夏休みなんか当然取れないから、更新お休みはいたしません。あ、ウェブマスターは夏休み取るか。次回はどうして『不夜城3』がなかなか書けないのかについて書く予定。

(2003年8月8日掲載)

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