Hase's Note...


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「危機的状況」

 去年一年間は本当に仕事をさぼっておって、どこかに書いた記憶もあるのだが、収入が前年比マイナス80パーセントになって、なんと、税理士さんがあまりの収入減に顧問料をおまけしてくれるという事態にまでなっていた。年間に単行本を一冊しか出さないと、そういうことになる。宮部みゆきなら話は別だろうが、わたしの本、ベストセラーとか言われたって、売れて5、6万部。印税、一千万前後。そらだけあれば普通に生きていけるはずだが、もっと金があった時期にマンション買わされたりして(不動産なんて持ってたって意味ないとわたくし個人は思っているのですけどね)、月々に払わなければならないローンが大量にあるので、節約生活を強いられる。
 雑誌に小説連載して、その原稿料を日々の生活の糧にして印税は嬉しいボーナス、というのが日本の作家の現状だものな。そりゃ、仕事サボってると、生活苦しくなります。最近は、大好きなゴルティエの服も買ってません。買えません。
 好き勝手やりたくて仕事をサボっていたわけで、金がなくなるのも当然わかっていたから、そりゃそれでいいのだが、ここに来て、別の問題が持ち上がってきて頭が痛い。
 仕事をサボるということは、普段世話をかけている各出版社の編集者たちに不義理をするということだ。その不義理を不義理にしないために、「仕事しないのはこの一年だけ。ワールドカップがある今年だけ。来年以降はきちんと働くから」と頭を下げ、編集者たちには我慢してもらっていたのだよ。
 で、深くものを考えずに口にしていたそのいい訳というか、屁理屈が、最近になってずしりと背中にのしかかってきている。
 今は週刊ポストの連載ひとつだけだが(ちなみに、この連載のおかげで経済状況の危機はなんとか脱出した。原稿料がどれだけありがたいかが身に染みる)、冬にはもうひとつ、週刊誌の連載をはじめなければならず、来春にはさらに週刊誌が一本。おそらくその後にもう一本。来年の今ごろは、週刊誌の連載を四本抱えるという地獄の様相を呈すること確実な状況だ(『弥勒世』が一年で完結するとは思えないもんね)。あ、夏に新聞連載もしなければならないのだ。どうしよう。
 連載だけじゃなく、書き下ろしも2・5冊やらねばならない(『無』も半分書き下ろしだし)。ああ、これは完全におれの能力的限界を完全に超えている。どうしよう。冬までの間にできる仕事をなるべく済ませておきたいというのに肝心要の『不夜城3』がどうにもこうにも進まなくて、わたしは泣きたい。
 どうしてこんなことになるのかといえば、わたしの浅はかさにすべて尽きるわけだが、もうこんな生活は嫌だと、気が狂いそうなほど多忙だった3、4年前でも連載は四本抱えていたにすぎない。それが五本。しかも書き下ろし付き。脂汗が滲んでくる。どうしよう。
 引き受けてしまった以上、歯を食いしばりながらでも書かなければならないのは職業作家である以上、わかっちゃいる。がしかし、本格的になんとか対策を考えなければ破綻しそうだ。なにより、この調子じゃ、来年ポルトガルで開催されるEUROにはとてもじゃないけど行けそうにない。
 それがなにより悲しいというのがいかにも情けないが。
 というわけで、今回はひとりよがりな愚痴を連ねました。しょうがないよな。ヤン・ウルリッヒも肝心なところで転倒しちまうぐらいだし。
 ああ、そうだ。某所で図書館問題に関わっている某団体が出した、作家別の日本全国の図書館で利用されている冊数の試算というものを見せてもらったのだ。あくまで試算なんだけど、図書館利用され率ナンバー1の作家はやっぱり宮部みゆきで、一年間で宮部みゆきの本が日本全国の図書館から貸し出されるのべ冊数(繰り返すけど、あくまで試算ね)が、なんと、百六十万冊近くになっていた。
 百六十万だぜ、おい。笑っちゃったね。犯罪的数字だ。十億単位の金が、「無垢な市民」たちにかっさらわれている。他の作家の分をあわせると、出版業界から図書館を窓口にして消えていく金は優に百億は超えてるんじゃないか。文化はどこへ行ってしまったんでしょう。

(2003年7月27日掲載)

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