Hase's Note...


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「祝、WWF日本上陸」

 行ってきてしまった。横浜アリーナ。WWF、スマック・ダウン・ツアー・イン・エイジア。
 当日は、大藪春彦賞の授賞式という大きなイベントがあったのだが(なにしろわたしは、この賞の第一回受賞者だ)、わたしはWWFを選んだ。大藪さん、すみません。陳謝します。しかし、WWF、見たかったんです。絶対に、ライヴを体験したかったのです。
 もう一昨年になるか、日本の月刊プレイボーイ誌を通じて、WWFに取材を申し込んだことがある。剣もほろろに断られた。日本のプレスなんてお呼びじゃない、というわけだ。アメリカ本国のプレイボーイならいざ知らず、日本のプレイボーイだ? 知らんね。帰った、帰った。
 自腹を割いてまでアメリカには行きたくない(このウェブによく来る人なら、わたしのアメリカ嫌いは知っているだろう)。しかし、生WWFはなんとしてでも見たい。この葛藤に悩まされた一年だったが、WWFの方から日本に来てくれる、という。このチャンスを逃すことなど、どう考えてもわたしにはできなかった。
 もう一度、大藪さん、ごめんなさい。誠に遺憾に思います。
 いや、しかし、初めての生WWF、わたしは心の底から堪能した。試合の結果ははじめからわかっている。凱旋した日本人は当然のように勝つし、タイトルマッチが行われても、タイトルの移動は絶対にありえない。そんなことをしたら、アメリカ本国で進行中の「ドラマ」が破綻するから。
 それでも、そんなことは関係ない。レスラーたちの名前を連呼し、決め台詞を合唱し、パフォーマンスを堪能する。
 わたしは馬鹿になっていた。脳の活動を停止させていた。それでも、充分に楽しかったし、楽しみすぎてぐったりするほど疲れ果てた。ロック様の決め台詞を最後に叫んだときには、恍惚としていた。
 これでよい。WWFはこれでよいのだ。ドラマとは関係のない試合、日本で行われる試合、そのせいか、各々の試合はどこか重めだった。WWFの連中も日本がプロレス先進国、日本人のプロレス眼が高いことを知っている。だからといって、いきなり「きちんとしたプロレス」をしようとしてもそこには無理が生じるのだが、なに、慣れてくればそんなことも解消されるだろう。あれだけ盛りあがったのだ。WWFはこれからも度々日本に上陸する。
 去年だったか、若い衆と酒を飲んでいるときに、全日本だかノアだかの濃いファンだと自称する若者から「筋肉バカのくだらないパフォーマンスなんて、なにがおもしろいんですか」と聞かれたことがある。そのうちわかるよ、と答えただけだが。わたしも昔はその若者と同じだったので、微笑ましかったのだが。アントニオ猪木だって、形が多少違うだけで、WWFとほとんど同じことをやってるじゃないかとはいわなかった。とうのたったプロレスファンから見れば頭にくるほどくだらないイベントを、君ら若者は喜んで受け入れているじゃないか、とはいわなかった。プロレスラーが総合格闘技に乗り込んでいってぼこぼこにされるのを見て、なにが楽しいんだ、とは訊かなかった。
 わたしはもう、日本のプロレスはまったく見ない。これっぽっちも見ない。WWFとK−1の中量級があれば、もう、それでいい。
 武藤も全日本入り失敗したと思っているだろう。WWFに行きたかったと思ってるだろう。
 それぐらい、WWFは素晴らしい。楽しかった。三時間があっという間だった。試合後に飲んだ酒も、とてつもなくうまかった。
 こんなに楽しい時間、楽しい酒を堪能したのはいつ以来だろう。
 あ、ヨーロッパでアーセナル対ユヴェントス、バルセロナ対ローマを見たときも同じだったか。
 わたしも相当いい加減だ。
 でも、来年はワールドカップも終わって、サッカーの仕事が相当減るだろうから、なんとかしてレッスル・マニアに行こうかなぁ。行きたいなぁ。

(2002年3月4日掲載)

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