「またも、いろいろ」
十日振りに帰国すると、なんだか、オリンピック報道がうざい。まあ、日本のテレビはありとあらゆるものがうざくできているのだが、それにしても、わけのわからんアナウンサーや行われている競技にまったく関係のない元スポーツ選手がしたり顔で登場して解説するあれ、なんとかならんものか。競技だけ楽しんでおればいいではないか。
帰国前はスペインにいて、スペインではオリンピック報道など、おざなりにしかなされていなかったので特にうざく感じるのかもしれない。たぶん、スペインも夏季オリンピックはうるさく報道してるに違いないのだ。冬季オリンピックはメダルなんか取れそうにもないから話題にしない。ごくごく当たり前の対応。これがオランダやイタリアだと、それこそたくさんメダル取ってるから連日のようにソルトレイクの模様が放映されていた。でも、日本ほどうざくねぇんだな、これが。
チャンピオンズリーグ、レアル・マドリー対FCポルト戦の翌日のスペインのスポーツ新聞は、サッカーの記事が16ページ、オリンピックの記事はたったの2ページ。わかりやすすぎて笑ってしまう。
十二月にヨーロッパに行ったときは、さすがに死人状態で帰国した。スケジュールが無茶苦茶ハードだったのに加えて、イギリスに三日も滞在したからだ。あそこの食事は本当にまずい。人生がいやになる。わたしはイギリスで、「腹が減っていればなんでもうまい」という言葉が嘘であることを実感した。本当にまずいものはいつ何時食ってもまずい。あんなやつらに文化を語られたくはないと真剣に思う。
翻って、今回の旅の食生活はまことに充実していた。きつかったのは到着初日のオランダの夜か。あの国、夜の十時半にはレストランがしまってしまう。ナイターの試合を見た後では食うものがなにもない。しかし、その後はイタリアとスペイン。ミラノとパルマは当然として−−ミラノの郊外のリストランテで食べた「ラード」のスライスの、なんとうまかったことか!!−−今回、初めて訪れたバルセロナの食事も、筆舌に尽くしがたいほど美味だった。ただうまいだけじゃなく、真夜中の12時にレストランに到着しても、明け方の四時近くまでうまい食事を供してくれるのだから、これはまさに食い道楽の天国だ。なにしろあの人たちのランチタイムって、午後の2時から5時近くまで続くから。ワインもうまいし、葉巻だって吸い放題−−まわりが食事中だから遠慮してくれなんて野暮なことをいう人間は皆無。スペインに移住したいと考えたわたしは本当に単純だ。
今回、いつかは訪れてみたいと切望していたふたつのスタディアム−−サンティアゴ・ベルナベウとカンプ・ノウに行ってきた。どちらも凄いスタディアムだが、圧倒されたのは、カンプ・ノウ。金子達仁に一度は行かなきゃと散々いわれてはいたのだが、行ってみて、金子の言葉を実感した。あれは別世界だ。八万人のブーイングの凄まじいこと。八万人の応援の熱いこと。対戦相手による差もあったのだろうが、こと「熱さ」に関しては、マドリー・サポーターはバルサ・サポーターの比ではない。しかも、あれだけ熱かったくせに、試合が終わるとみなそそくさと席を立つ。民族大移動がはじまる。熱しやすく冷めやすいの典型なんだろうな、あの人たち。
試合後のスタディアムの外は大混雑。八万人の観衆のうち、二万人はバイクで駆けつけてきているから、排気ガスで空気がとんでもないことになる。あんなところに暮らしていて、煙草が健康に悪いとかなんとか、そんなことをいいだすはずもないよな、と心から思う。煙草なんぞより、排気ガスの方がいかに人体を害するかがよくわかる。わたし、排気ガスの吸いすぎで気分が悪くなったぐらいだ。
どうして煙草の煙が嫌だという人たちは、車の排気ガスについてなにもいわんのだろう。いっても無駄だとわかっているからか。だとしたら、嫌煙運動なんてものはただの弱いものいじめにすぎんではないか。
話が脱線した。
バイクの排気ガスには辟易させられたものの、バルセロナは気に入った。マドリーはそうでもないが、バルセロナは素晴らしい。わたし、サグラダ・ファミリアには当然行かなかったし、観光スポットにも足を向けたりはしなかったが、街の空気をおおいに楽しんだ。あれで、泥棒さんがいなけりゃ、本当に素晴らしいのだが。日本の旅行代理店なんてのは本当に酷いもんで、「街の中心で便利だから」という理由で、治安の悪い地域のホテルを平気で客に使わせる。わたしがマドリーで泊まった4つ星ホテルは、壁が薄く狭く、ホテルの向かいの銀行の窓ガラスには銃弾の後と思われる穴があき、ひびが入っていた。ところが、わたしの知り合いの某サッカー・カメラマン氏が泊まっていたホテルは、マドリーの副都心にあるお洒落なブティックホテル。部屋は綺麗で清潔で、周囲の治安もいいし、美味しい店もたくさんある。それでいて、わたしのホテルと値段は同じ。もちろん、そのホテルはカメラマン氏が自分の足で探したものだが、旅行代理店よ、もちっと勉強したらどうだといやみのひとつやふたつもいいたくなった。観光目的なら、多少治安が悪くても交通の便を優先させた方がいいのかもしれないが、わたしら、観光はせんのだ。
テロのせいでどうのこうのと旅行業界はいっているが、業績不振の本質は、こうしたところにあるのだろう。
ああ、それにしても今回はパック旅行の日本人が多かったなぁ。去年まで手控えていた分、一気に海外に出る人間が多くなったという印象だ。喉もとすぎれば熱さ忘れるのか。日本人もそういう意味ではスペイン人に似ているか。要は、それを自覚しているかどうかだな。
わたしたち、エコノミック・アニマルとかいわれていい気になってましたけど、実はとってもいいかげんな民族なんです。いいかげんすぎるから、経済も破滅状態に陥ってるんです。破滅することがわかってるのに、本当にいいかげんだから、なにも手を打てないんです。
これ、現実以外のなにものでもないと思うがどうか? ラテンの人たちのいいかげんさも呆れるほどだが、あちらの国はそれほど住みにくくはないぞ。おのれらが馬鹿者だと認めれば、もう少し楽に生きていける国になると思うんだがなぁ。実際、この国には文化なんてないんだし。経済が破綻するかどうかの瀬戸際にいるというのに、国会が揉めてることって鈴木宗男だし。どうにもならんよなぁ。
(2002年2月24日掲載)
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