「夢と現実」
風邪を引いてしまった。風邪というか、インフルエンザなのかしらん。よくわからない。
とにかく、一番拙い時期に病気に罹ったわけだ。近々、またもやサッカーを観るためにヨーロッパに渡る。その前にできるだけ仕事をこなしておかなければならないというのに、咳、鼻水、発熱の三重苦。しかしだからといって、おめおめと寝ているわけにもいかず、身体を騙し騙し仕事をつづけた。
そのせいかどうか、なかなか風邪が治らない。最初のうちは心配そうな態度でわたしのそばに張りついていた愛犬も、日が経つにつれて、家にいるのに散歩に連れていってくれないわたしを詰るようになってしまった。本当に詰るのだ。不貞腐れたような目つきでわたしを睨み「フン」とわざとらしい息を漏らす。わたしがベッドで臥せっていると、散歩に連れていけとわたしの鼻を舐め回し、わたしの眠りを妨げる。
ビッチめ。当たり前だが。
わたしは普段、あまり夢は見ないというか、見た夢をまったく覚えていないタイプなのだが、高熱を発していると、普段にもまして夢を見るようだ。ようだ、というのはこれもまたわたしが夢の内容をまったく覚えていないせいなのだが、今朝、連れあいに起こされた際、わたしはこう口走っていたらしい。
「それで、いくらするんだよ? それ」
どういう夢を見てたのよ? と連れあいに問い詰められたのだが、どうにもこうにも思いだせない。まあ、夢の中でもあれを買ってくれ、これを買ってくれといわれていたのだろうとは容易に想像できるが。
「わたし、最近はそんなに買い物してないでしょ」
と、連れあいに詰られる。それもまあ、むべなるかな。
わたしが病に苦しんでいる間、連れあいは確定申告の準備におおわらわだった。で、連れあいが大雑把に計算したところ、わたしの昨年の収入は、一昨年に比べると三分の一程度にしかならなかったらしい。それでは、買い物などしたくてもできない。
「なんでこんなに収入減ったの?」
連れあいに詰問される。
いや、あの、その。ちょっと疲れてたから連載の本数減らしたし、新刊も『ダーク・ムーン』しか出なかったし、おれのこれまでの作品の中で最高の出来だと自負してるんだけど、おれのこれまでの本の中で一番売れなかったし、集英社から金借りてたから、その分印税からさっ引かれたし。とんでもねえ版元だよな、集英社って。とんでもないのはわたしか。
いや、それにしても三分の二もの収入減は痛い。一昨年の稼ぎといっても税金を払った後ではほとんどなにも残らず、残った金も少しずつ食いつぶしていくしかない。今年は金稼ぎに走ろうかと思っても、ワールドカップがあるから、やはり仕事はしたくない。『マンゴー・レイン』の直しも早くしろと急っつかれているし、『不夜城3』も書き下ろさなければならんし、『生誕祭』も本にする前に大幅に書き直すつもりだし、『無』を本にするためにも、年内一杯から来年前半にかけて全力疾走しなければならない。
困ったものだ。
週刊新潮の『無』は来週で終わる。いろいろあってね。嫌なことがたくさんあってね。それで、話の途中だが終わらせることにした。この世の中にはくだらないことが多すぎる。それでも、本にはしたいし、本にするかぎり、全霊を傾けたい。そうすると、やっぱり時間が足りん。貧しい生活に、しばらく耐えなければならん。
今年中に馳星周が新しい連載をはじめたら、本当にあいつは金に困ってるんだなと思ってやってください。
あ、それからもうひとつ。ちゃんちゃらおかしいことに、今年、わたし、慶應義塾大学で講師を務めることになってしまった。わははは。このわたしになんの授業をしろというのだろう。授業は後期か。詳しいことが決まったら、インフォメーションにアップします。単位が欲しかったらおれの本を買えとでもいっておくか。
次回の更新は休みます。
(2002年2月11日掲載)
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