「旅の思い出ぽろぽろ」
サッカー観戦のためにヨーロッパに行っていた。
サッカーに関するあれやこれやは、今後「SPORTS YEAH!!」誌に原稿を書かなければならないので、ここでは割愛する。
代わりに、旅で起こったできごとを、ぽろぽろと書く。
今回の旅は体調に関しては最悪だった。オランダのホテルで首を寝ちがえたのが、そもそもの始まり。日が経つにつれて首の痛みが酷くなり、やがて首がぴくりとも動かなくなり、最後には炎症を起こして発熱までしてしまった。
ミラノのマルペンサ空港からパルマに向かうタクシーの中で爆睡、その時、痛い方の首に負担をかけたのが悪かったんだろうなぁ……。とにかく痛い。首が動かない。左右を見ることができないので道路も渡れない。
しかし、パルマでは中田と飯を食う約束をしていたし、その翌々日にはヴェローナに行って試合を見なければならない。
しかたがないので、痛い首を騙しながらパルマ中の薬局を歩き回った。英語のできる店員を捜すためだ。やっと見つけた英語のできる店員だったが「スティッフ・ネック」という言葉を理解してくれない。やっとの思いで「首を曲げられないんだよ、痛くてさ」というと、なんとか理解できたようで薬を持ってきてくれた。
塗り薬と鎮痛剤で少しは楽になったのだが、あれほど酷い寝ちがえは生まれてはじめてだ。年を取って肉体が衰えているということなのだろうか。ああ、いやだいやだ。おかげで、ウェブマスターから「旅行に行く時はできるだけたくさん写真を撮ってくること」と厳命を受けているのだが、今回はただの一枚も写真を撮らなかった。首が痛くてそれどころではなかったのだ。
オランダのロッテルダムでは、いつも「富士」という日本レストランのお世話になる。オランダ、特にうまいものがあるわけではないから、日本食で充分。「富士」の料理はすこぶるうまいし、スタッフたちのサーヴィスも文句なし。加えて、オーナーの島田氏はロッテルダムでも知る人ぞ知る名士で、なにくれとなく世話を焼いてもらっている。
今回もユトレヒトで行われたUEFA杯のチケットを手配してもらった。おれは人に恵まれてるなぁ。
島田氏はわたしだけではなく、日本からオランダに来たサッカー選手の世話も焼く。かつての小倉から、現在の小野まで、島田氏には頭があがらないはずだ。島田氏は「富士」の他に「弁慶」という鉄板焼きレストランも経営しているのだが、この両方に、小野も時々顔を出すという。興味のある向きは、ロッテルダムを訪れた際に、足を運んでみるといい。
場所は……自力で探してくださいな。
パルマでは、また、例のプロシュートを食べに行った。首は痛かったが、プロシュートは最高だった。今回食したのは、「febbraio 1999」というプロシュート。一九九九年2月産という意味らしい。柔らかくて口の中でとろける。思い出しただけで涎が出る。プロシュートの他にも、パスタもメイン料理も美味で、このリストランテはわたしが知る中でも世界一うまい店になる。店のフロアボスらしき爺さんもわたしのことを覚えていてくれて、楽しいことこのうえない。
しかし、今回は日本人客がおおかったなぁ。みんな、どうやってあの店のことを知るのだろう。
帰国する飛行機の中、首が痛くて寝つけず、しかたなくヴィデオを見続けていた。中でも良かったのは中国映画『初恋の来た道』(邦題、間違ってるかもしれない。ゆるせ)。戦後の中国のど田舎、そこに暮らす少女の、都会からやって来た若い教師への恋慕を描いた物語なのだが、いや、主役を演じる女の子がいい。可愛い。しかし、可愛いだけではない。彼女には台詞がほとんど与えられていないにもかかわらす、表情と仕種だけで、淡く切ない恋心を見事に演じているのだ。
この映画はふたつのパートにわかれている。ひとつがこの少女の物語。もうひとつは、後年の年老いた少女とその息子の厳しい現実を描いた物語−−モノクロで描かれる。このモノクロパートと、少女の恋が描かれるカラーパートの対比がまた見事で、わたしはついつい、落涙してしまった。
監督はチャン・イーモウ(漢字がわからん。わたしの脳は明らかに退化している)。ここ数作は駄作が続いていたが、これは文句なしの傑作。見終って思うこと多々−−なぜ日本にはこの映画で主役を演じた少女のような女優が出てこないのだろう? なぜ、こういう映画を撮る監督が出てこないのだろう? なぜおれの国の文化はこんなに薄っぺらなんだろう? 親父よ、お袋よ、爺ちゃんよ、婆ちゃんよ、なんであんたたちはこの国がこんなあさましい姿を晒すようになるまで黙っていたんだ!? 反テロだ、国際協調だ、自衛隊派遣だと喚いている首相が、オスロ合意すら知らないっていうんだ。政治家がものを知らないってことは犯罪だ。あの首相は犯罪者だ。その犯罪者を国民は圧倒的に支持している。やってられねえぜ、まったくよ。
支離滅裂。鎮痛剤とワインのせいか。
旅に出るといつも思ってしまう−−わたしは日本が嫌いだ。日本人であることに誇りを持てない。遠くない将来、必ず他国の国籍を取得してやる。他の国もろくでもないが、少なくとも日本よりはましだ。
アメリカに行くと、アメリカがますます嫌いになって、日本が好きになって帰ってくるのだけれどね。
(2001年10月24日掲載)
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