「パルマ」
今週末から、イタリアに行ってくる(つまり、次週は更新を休ませてもらう)。サッカーのヨーロッパ・チャンピオンズリーグの決勝戦を観戦するためだ。
半年ぶりのイタリアなので、久しぶりに中田の顔を見たかったのだが、スケジュールがあわずに断念。この二試合の活躍ぶりのおかげで、ヒデとローマの街を歩けば、いろんな美味しい思いが味わえるのではないかと下卑た期待をよせていたのだが、まあ、しかたがない。優しい中田は口にしないが、「どうしておれの試合みてくれないんだよ」といわれても当然だものな。
それはそれとして、今回はミラノに宿泊することになっている。わたしはこれまでに五度ほどイタリアを訪れていると思うのだが、不思議とミラノには縁がなかった。たいていは通過するだけだ。一度、一泊したことはあるのだが、その時も、十日に渡る旅行の最後の日で、連日のうまい食事とワインのせいで仕事が滞り、空港からホテルまでタクシーで直行し、食事もすべてルームサービスですませて、ただひたすらに原稿を書きつづけ、翌日、タクシーで空港に向かってそのまま帰国した。わたしはミラノでホテルの壁しか見たことがない。
なぜ、それほどまでにミラノにつれないかといえば、ミラノのそば−−電車で一時間ほど離れたところに、パルマという街があるからだ。ミラノに宿泊するぐらいなら、パルマに宿を取ってもらいたい。わたしはいつもそう望んでしまうのだ。
パルマを初めて訪れたのは、もう、二年前のことになる。雑誌の企画で、イタリア・スペイン、サッカー三昧の旅というのをやった。たしか、十日で六試合を観戦したのだった。
その旅の途上で、わたしはパルマに宿泊した。もちろん、サッカーの試合を見るためだ。わたしはパルマに対して、なんの知識もなかった。生ハムと粉チーズの産地。それぐらいのことしか知らなかった。ペルージャから列車に揺られて、パルマの駅に降りたった瞬間から、たぶん、わたしはパルマの街の雰囲気を好ましく感じていた。こじんまりとしていながら、どこかポップな感じのする街だったからだ。
気分が昂揚するのを感じながら、ホテルにチェックインし、そのまま、ホテルのフロントに美味しいリストランテを推薦してもらう。同行した編集者とそのリストランテを探しに行ったが、見つけられず、とりあえず目にとまったトラットリアになんの気なしに入ったのだ。そこの前菜のメニューに「プロシュート(パルマ産生ハム)とパルミジャーノレッジャーノ・チーズ(いわゆるパルメザンチーズ)」というシンプルな料理が乗っていた。
いくら名産だからといって、ふたつ並べればいいってもんじゃないだろうと思いつつ、わたしはそれを注文した。プロシュートを口に入れて、絶句した。
この世のものとは思えないほどうまいのだ。東京でもローマでも、わたしは生ハム=プロシュートを食べたことがある。だが、パルマで食べるプロシュートはそれこそ、まったくの別物なのだ。わたしは感激し、感動し、感極まって、店のスタッフにパルマのプロシュートは素晴らしいといい募った。彼らは苦笑しながら、わけのわからないことを喚く金髪の東洋人にできうるかぎりのサーヴィスを提供してくれた。
パルマには二泊した。二日目の夜に見たパルマ対アトレティコ・マドリーの試合は退屈だったが、パルマの街は素敵だった。わたしと編集者は昼も夜も、プロシュートを食べつづけた。どこで食べてもプロシュートは美味だった。いや、そうではない。パルマでは、どんなリストランテやトラットリアに入っても、プロシュートを筆頭に、すべての料理が美味だったのだ。
パルマに一目惚れしたようなものだ。以来、わたしはイタリアに行くことになった場合、なんとかパルマに立ち寄れないかとあれやこれやと画策する。
そう、ミラノに泊まるぐらいだったパルマにしようぜと訴えるのだ。
今度のイタリア行きでも、わたしはパルマに一泊する。セリエAの日程が変わってしまったために試合を見ることはできないのだが、それでもパルマに行くといい張ったのだ。それほどまでに、パルマはわたしにとって魅力的な街だ。引退したら、パルマに家を買って住みたいとまで思っている。
もし、ミラノを中心にしたイタリア旅行を計画している人がいたら、是非ともパルマにも足を運ぶことをお薦めする。掏摸や置き引きに気を使う必要もなく、昼間っから美味な料理とワインに舌鼓を打って、街を散歩しながら腹をこなし、酔いをさますには最高の街だ。
(2001年05月14日掲載)
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