「ある一週間」
*木曜日
アメリカから帰国する。成田到着は夕方の五時半。飛行機の中では寝つづけていたのに、車に乗った途端にまた眠気に襲われる。道路は渋滞。眠り、目覚めると自宅近く。
連れあいと犬に挨拶をすませ、そのままベッドへ直行。二時間後に起きだし、軽食を食い、酒を飲む。ほどよく酔ったところで再びベッドへ。爆睡。
*金曜日
早起きして犬との久々の散歩を楽しむ。咳がでる。鼻水が出る。おかしい、と思いつつ仕事。アメリカではほとんど仕事ができなかった。溜まった仕事をこなすには、咳がでているぐらいで休むわけにはいかない。
夕飯は連れあいと近所のレストランへ。ワインを飲み、うまい料理に舌鼓を打つも、途中から瞼が重くなる。九時ごろ帰宅し、CS放送で映画を見るも、途中でダウン。爆睡。
*土曜日
早朝から連れあいが旅行に出かける。わたしは九時に目覚める。身体が重い、寒気がする。熱をはかる−−三十七度五分。最悪。いつも犬の面倒をみてくれる若い衆に電話をかける−−出ない。この日は終日留守にするといわれていたことを思い出す。最悪。秘書に助けを求めようと思う−−秘書のプライベートの電話番号はすべて連れあいが把握していることを思い出す。連れあいの旅先での連絡先をわたしは知らない。最悪。連れあいの母に助けを求めようと思う−−電話番号を知らないことに愕然とする。最悪。寝ては起き、犬の散歩に行き、また寝る。食事はコンビニで買ってきたレトルトのお粥、またはサンドイッチ。散歩が短いせいか、犬が不満そうだ。勘弁してくれ。
*日曜日
熱は三十八度を超えている。若い衆が捕まったので犬の散歩を頼む。仕事をしなければと思うが、身体がいうことをきかない。終日、ベッドで寝て過ごす。夜、今日が自分の三十六歳の誕生日であることに気づく。犬を枕元に呼び寄せて、「今日はおれの誕生日なんだぞ」という。犬が鼻を舐めてくれる。
*月曜日
熱はまだ引かない。出勤してきた秘書に、犬の世話を頼む。どこぞで食い物を調達してきてくれと命じる。昨日は自分の誕生日だったが、今日は犬の誕生日である。秘書に、犬用に上等の鶏ささみ肉を買ってくるようにいう。ささみを茹で、犬に食わせる。犬はわたしの具合の悪さなど知らんぷりでささみを平らげる。あっという間に平らげる。うまかったかと聞くと、もっとちょうだいと尻尾を振る。頭に来る。
あとは終日ベッドの中。腰が痛い。肩が凝る。世界中を呪って眠りにつく。
*火曜日
九時起床。熱が下がっている。犬と散歩に行く。新聞を読み、3日ぶりのくそをする。熱が出ている間は不思議と便意を覚えなかった。食事を作る。食う。お茶を淹れる。飲む。CS放送でその日行なわれている競輪をチェックする。
午後一時、仕事に向かう。ひたすら、仕事をする。
午後五時、心身ともに疲弊してパソコンをシャットダウンする。秘書に明日からのスケジュール表を渡される。秘書も明日から旅行に出る。旅先でわたしの連れあいと合流する。くそ、おれの金で−−呪詛を飲みこむ。
競輪の結果をチェックする。コンビニで弁当を買ってきて晩飯。犬と遊び、午後八時、仕事再開。十一時まで。
その後は犬と散歩に行く。酒を飲みながらCS放送を見る。午前二時、就寝する。
*水曜日
くその量以外は、前日とまったく同じようにして過ごす。
*木曜日
前日とまったく同じようにして過ごす。
*金曜日
前日とまったく同じようにして過ごす。仕事の合間に、失踪したいという思いがよぎる。本気で失踪することを考える。どうしてみんな作家になりたいなどと考えるのだろうと不思議に思う。みんな馬鹿なのだという結論に達する。
(2001年02月26日掲載)
|