「イタリアにて」
スカパー!のnakata.net.tvで中田英寿と対談をするため、急遽イタリア行きが決まってしまった。で、今、イタリアのホテルの部屋でこれを書いている。本当は仕事をせにゃならんのだが、昼間からついワインなんぞを飲んでしまい、どうにも仕事は進まない。
沖縄取材の直後で、なおかつどうやら5月発売になる予定の新刊『生誕祭』(詳細は近いうちに)の追い込みでスケジュール的にはどうにもきついのだが、実はこの依頼、2月にも一度来ていて、そのときはスケジュールのやりくりがつかなくて断らせてもらった。それなのに、3月になってもう一度打診があったからには、もう断れない。中田には去年の5月以来会っていないし、パルマにも5月以降は足を向けていない。パルマのうまい食事を思い出しては、舌が禁断症状を起こしていたということもある。
そうだとも。去年の今頃は毎月のようにヨーロッパに出かけてサッカー三昧の毎日を送っていたのだ。そのせいで本職をほとんどしなかったから、今現在は出版社へ前借りを検討するほどに金がない。金がないのに旅行に行けるわけもない。まあ、この依頼は渡りに船でもあったわけだ。
どうしてわたしに白羽の矢がたったかというと、去年、収録中に泥酔してあることないことでたらめを喋りまくった番組が、ことのほか評判が良かったからということらしい。ありがたいことなんだが、しかしいかんな。酔っぱらいを増長させては。
フライトはアリタリアだった。アリタリアは古い機体が多くてどうにも乗る気にはなれない会社だったのだが(荷物もよくなくなるしねえ)、今回2年ぶりに乗って驚いた。真新しいボーイング777で、当然機材も最新。これならJALに乗るよりはるかに素敵だ。運賃もJALに比べれば遙かに安い。わたしのフライトはJALとのコードシェア便だったのだが、JALの金額払ってる人は頭に来ないのだろうか。昔はJALのチケットでアリタリアの機材だと詐欺に遭ったような気がしたものだが。
イタリアに着いたその足で中田とスタッフが待っているリストランテに行って、当然ながらパルマの生ハム−−プロシュートに舌鼓を打った。いやはやいやはや、極楽かな。プロシュート以外のメニューは食事もワインも中田任せなので、楽ちんでもある。おかげでわたしは何度もイタリアに行っているのに、イタリア語のメニューをほとんど覚えていない。
時差ボケが辛いとは口が裂けても言えず、たらふく食って、たらふく飲んで、ホテルにたどり着いたのは真夜中の十二時か。ベッドに倒れ込んで爆睡して、目覚めたら昼の十一時だった。やれやれ。
昼飯はテレビのスタッフと、かつて中田に連れていってもらったリストランテで食したのだが、生ハムもジャガイモをつかったサラダもリゾットも美味しくて、だめだだめだだめだといい聞かせていたワインも飲んでしまって、ああ、幸せだなあ、これで仕事がなければ天国だなあ、と酔っぱらった頭で考えていたのだが、部屋に戻ってメールをチェックすると、5月から連載を開始する予定だった沖縄を舞台にした小説を4月頭からの連載にすることは可能でしょうかと週刊ポストの編集者からメールが届いていた。
冗談じゃねえ、一ヶ月も早まるなんて勘弁してくれよと、頭は一瞬だけ反応するのだが、次の瞬間にはすべてがどうでも良くなって、今日の夜はいよいよ、おれの大好きなあのリストランテで飯を食うのだ、明日の夜は中田がピアチェンツァにあるというすんごく美味しいリストランテに連れていってくれるといってたよなあ、などということを考えだす始末。
イタリアは危険だ。ここにいると、人は確実に堕落する。おれだけか。とにかく、3泊5日の強行日程で、明後日には帰国の途につくのだと思うと、もう、楽しみは食事しかなく、パルマの食事はいつだって美味しく、わたしは飢えた豚のように食事のことしか考えられなくなってしまうのだ。
でも、沖縄物の小説、どうしよう。とてもまずい。飯のことなぞ考えている場合ではない。だけど、今夜食べる予定のプロシュートのことを考えるだけで、わたしの脳みそはどろどろと溶けていく。
とりあえず、明日の昼飯ではワインは絶対に飲まないことにしよう。でないと、マジでまずい。
(2003年3月16日掲載)
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