Hase's Note...


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「風邪と香港と犬と」

 1月の4日ごろから、鼻がおかしくなってはいた。ぐずぐずと鼻水が絶え間なく流れてくる。こりゃ風邪だな、やばいなあ、とは思っていたのだが、忙しさと生来の病院嫌いのせいで、市販の風邪薬を服用してごまかしていた。熱が出たのは10日頃だったろうか。夕方、突然寒気が襲ってきて、体温計を使うと、38度5分。
 まあしかし、ガキのころから自慢じゃないが身体は弱かったので、1日か2日寝て熱が下がれば風邪も快方に向かうはずだということはわかっていた。
 が、問題はそのすぐ後にかんづめにならなければならかったということだ。せっぱ詰まっているからかんづめになるのである。風邪を引いたからスケジュールをずらすというわけにもいかない。というわけで、熱はなんとか下がったものの、怠い身体とぐずつく鼻を騙し騙し、わたしはホテルに向かった。ホテルにいる間は、おそらく、仕事に対する集中力のせいだろう、風邪は悪化しなかった。が、治りもしなかった。一週間弱のかんづめを終えて家に戻ると、また、寒気が襲いかかってきた。気力が萎えたんだろうな、きっと。
 今度は9度を超える発熱だった。2、3日寝てりゃ治るさとは思うのだが、実はその2日後に、わたしは香港に旅立つことになっていたのだった。
 泣く泣く、病院に行った(もっと早くに行っていればこんなことにはならなかったんだろうけど、人間って馬鹿なのよな)。明日香港に発つので、なんとかして熱だけでも下げてくださいと泣きついた。
 医者はインフルエンザを疑っていたようだったが、検査の結果はただの風邪だった。疲労が溜まっているせいで、風邪が治りにくくなっているのだろう、と医者はいった。そりゃそうだろうよ。おれ、疲れてるもん。くたくただもん。とにかく、風邪薬と抗生物質、それに鼻炎の薬と念のための解熱用の座薬をもらって、家に帰った。
 薬のおかげだろうか、翌日、熱は下がった。風邪っぴきだというのに早朝6時に起きて、車で成田に向かう。普段なら、わたしは飛行機が怖いのでビジネスラウンジでしゃかりきになって酒を飲み、べろべろに酔っぱらうことで怖さを忘れようとするのだが、さすがに酒を飲む気にはなれない。おかげで、とてもとても怖いフライトになってしまった。鼻が詰まってるせいで、気圧の変化にもうまく適応できず、フライト中は始終頭痛にも悩まされた。
 しかしまあそれでも香港に着けば空元気は出てくる。早速友人を呼び出して、ジョーダンの「北京酒楼」でお気に入りの北京料理を食いまくり、ビールとワインをちょっぴり飲んだりすると、頭が重くて眠くなる。
 翌日は、香港に行ったときのルーティンと化している「福臨門酒家」で飲茶をし(相変わらず餃子入りスープは絶品だなあ。とにかくスープが上品でこくがあってまろやかだ)、町中をうろついて、とあるセレクトショップでご機嫌に格好いい毛皮のコートを見つけて衝動買いしてしまう。この時期の香港はセールのまっただ中なので、定価の半額で買えたことも嬉しかったりする。なんかもうこれで、香港でやることなくなっちまったなあ、とでもいいだしそうな勢いだった。でもマジ恰好いいんだぜ、そのコート。だけど、あんなコート香港で売って、だれが着るというのだろう。
 夜は銅鑼湾に渡って、杭州料理店レストランへ。ここは、数年前までわたしのお気に入りだったのだが、突然、閉店してそれっきりなんの音沙汰もなかった。それがだ、香港在住のわたしの友人(日本人)が、「馳さん、あの店、またオープンしたのよぉ」と教えてくれたのだ。行かないわけにはいかない。鼻は相変わらずぐずぐずいっているが、身体の怠さはずいぶんと軽くなっていたし。ここの名物は中華風の角煮(東波肉って書くんだっけかな)と、鳥丸ごと一羽、それと金華ハムで煮込んだ土鍋のスープ。スープは白く濁っているが、見た目よりもあっさりしていて、しかしこくはきっちりとあって、うまい。このスープをニラの入った水餃子と共に食すのだ。だしに使った鳥とハムも、もちろん食う。鳥はだしが出きった感じでそれほどうまくはないが、ハムは塩っ気がたっぷり残っていて、これまたうまい。白いご飯が欲しくなるのだが、実は角煮の時点で白米はたらふく食っている。煮汁を白米にかけると、もう、何杯でもお代わりができるほどなのだ。ちなみに、この店、わたしの香港人の友人を連れていったのだが、この香港人、食い物にはとみにうるさくて、わたしが美味しいと相好を崩すような場合でも「これは塩がきつすぎる」とかなんとかうるさい男なのだが、こっそり店のビジネスカードを持ち帰っていた。それだけうまいということだ。
 久々の杭州料理に舌鼓を打ち、風邪の具合もかなりよくなっているということで、食後はこれまた銅鑼湾の「ブレッツ」という行きつけのバーへ。バーのマスターのフレディはこの日、ハッピーバレーでナイター競馬があったせいで接客そっちのけで競馬中継に見入っていた。レースが始まるたびに店内は盛り上がり、そのたびにうまくもなんともない、ただ甘ったるいだけのカクテルが振る舞われる。おそらく、「ブレッツ」を出たのが午前3時。げろげろの二日酔い。おまけに、風邪が悪化する。
 翌日はどうにもならんのでお粥を食い、ホテルでごろ寝し、夜は夜で身体に滋養をというわけで、九龍サイドの、おこぜ(石頭魚)料理で有名なローカルな広東料理レストランへ。ここで、香港でいろいろお世話になっているテレサ小姐というお方にばったり出くわし、「馳さん、香港にいるのにどうして連絡くれないの」と叱られる。うーん、怠け者はいかんなあ。
 前日の酒がまだ残っているので、食後は早々にホテルに戻り、ジャグジーに浸かって疲れをいやす。ジャグジーはいいのう。
 翌日はマカオ。マカオが今回の旅の真の目的地。なわりには一泊しかしないわけだが、とにかく詳細なマカオの市街図を探すというのが目的だったのだ。でその市街図、マカオ市中心部にあるポルトガル書籍の専門店であっさりとゲットし、目的は達成される。あとは食うだけである。夜のセナド広場界隈を探索し、その後はホテルのコンシェルジェ一押しのポルトガルレストランへ行って舌鼓を打つ。まだ体調は本調子じゃないのでカジノへは行かず、ホテルのバーで酒を飲む。ついでに葉巻も吸う。鼻はまだ詰まっているが、かなり体調は上向きだ。
 翌日はフェリーで香港に戻り、フェリー乗り場がある上環にて、「九記」なる麺屋で牛すじ麺を昼食に。ああ、麺は日本でいうところのカップ麺っぽいんだが、だしのうまさのなんと絶妙なことか。いつも行きたい行きたいとは思っていたのだが、上環なんて滅多にいかんからなぁ。しかし、これはリピートする価値大ありだ。ついでに書くと、ここはカレー味のスープも有名なのだが、例の食い物にうるさいわたしの香港人の友人によれば「あそこのカレーはダメ、ダメ。牛すじのスープはめちゃくちゃうまいのに、なんでカレー、あんなにまずいかな」とのこと。そこまでいわれると、カレー味にも挑戦してみたい気はするのだが。
 夜はまたその友人たちを呼び出して、銅鑼湾の中華しゃぶしゃぶ屋へ。鳥と豚と漢方野菜で取った出汁でのしゃぶしゃぶは和風とは違って、また乙なもの。っていうか、スープものばっかり食ってるな、今回の香港は。まあ、風邪のせいだし、季節のせいだろう。1月の香港は、昼の気温が17度前後。ちょっとだけ肌寒い。
 ああ、久しぶりに友達と遊んだしうまい物たらふく食ったし、恰好いいコート手に入れたし、マカオの地図も見つかったし、今回の香港もいい香港だったなあと帰国したら、犬を預けていた病院の先生から電話。
「マージの左足の指の間に、また変なできものできてるんです。一応、検査しますから」
 せっかく病院通いが終わったというのに、またか、マージ。勘弁してくれ。
 というわけで、だらだらと書いてしまいました。更新さぼりつづけたお詫びというわけでもないんだが。
 ちなみに、いつもは香港の宿はペニンシュラにしているのだが、今回は金がなかったので、同じく九龍サイドのグレート・イーグル・ホテルに宿泊した。部屋のグレードはペニンシュラに比べるべくもないのだが、サービスは超一流。気に入った。香港へ行く予定のある人はご一考を。キャンペーン期間中だったので、わたしは定価の3分の2以下の宿泊料で泊まらせてもらいました。

(2003年2月1日掲載)

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