「邪推」
タイトルが示す通り、以下の文章はわたしの邪推にすぎないことを、まず、お断りしておく。
トルシエ君は自信を喪失していました。なぜなら、4年弱もかけて築きあげてきた自慢のフラット3が、ホンジュラスやノルウェイといったワールドカップに出場できない国に、簡単に粉砕されたからです。
トルシエ君には野望がありました。日本というサッカー弱小国をW杯でベスト16に導き、その結果を手土産に、ヨーロッパのクラブチームか代表の監督に着任したいのです。トルシエ君はサッカー選手としての実績もなく、監督としての戦術プランも貧弱なので、これまでヨーロッパには相手にしてもらえなかったのです。
日本はサッカー弱小国だし、唾棄すべき黄色人種の国だけれど、ホーム開催の利もあって、なんとかベスト16進めるかもしれません。
それなのに、それなのに、W杯直前で自慢のフラット3は崩壊してしまいました。今さら修正する時間はありません。トルシエ君の野望は風前のともしびです。
しかし、トルシエ君はここで開き直ります。というか、うまい言い訳を考えます。日本はダメな国だ。文化がない。サッカーがなにかもわかっていない。だから、どんな名監督が率いたとしても、日本がベスト16に進むのは難しいのだ。トルシエ君は自分にそういい聞かせ、これまでの言動を簡単にひるがえすような発言をするようになったのです。
それだけではありません。これまでの4年、選手を罵倒し、縛りあげ、自分のいうことだけを聞かせようとしていたくせに、いざワールドカップがはじまると、トルシエ君はそのやり方を変えました。選手に自由にさせたのです。だって、自分で指示を出したら、負けた時の責任も取らなければならないではありませんか。
トルシエ君の思惑とは違い、きつい手綱から解き放たれた選手たちは気迫を剥きだしにして戦いました。ロシア戦では4年間やって来たフラット3を簡単に放棄して、ロシアの猛攻に耐えました。ベルギーとロシアが本調子ではなく、日本を舐めていたからとはいえ、日本の選手たちは自らの力で結果を出したのです。
ところが、このおかげで、トルシエ君の消えかけていた野望にまた火がともりました。だって、チュニジア戦で大敗さえしなければ、日本はベスト16に進むのです。この手柄を自分のものにしないわけにはいかないでしょう。
それでも、チュニジア戦の前半では、トルシエ君はまだ慎重でした。チュニジアにもチャンスがあるのです。チュニジアが猛攻をしかけてきたら、また、フラット3は崩壊するかもしれません。しかし、チュニジアはなにもしてきませんでした。それで、トルシエ君は森島を投入しました。投入はしたけれど、なんのアドバイスもしませんでした。できなかったのかもしれません。それはともかく、森島が見事なゴールを決め、日本はチュニジアに快勝しました。無知で愚かなサポーターとメディアが「トルシエ采配の勝利」と囃したてます。それで、トルシエ君の自信は、再び揺るぎないものになったのです。
トルコ戦です。トルシエ君は燃えました。ここで勝利をもぎ取って、自分への評価を確固たるものにしたいのです。だから、先発メンバーを代えました。トルコの戦力を無視したトルシエ君にしては超攻撃的な布陣です。トルシエ君にしてはというのは、韓国に比べれば悲しいぐらいしょぼい攻撃的布陣だからです。それでもトルシエ君は努力したつもりでいたのでしょう。しかし、メンバーをいじったために、セットプレイでのマークがずれ、日本は簡単に失点しました。
トルシエ君の頭に血がのぼりました。
アレックスはいいプレイをしていました。中田と小野との三人で、何度もトルコを脅かしていました。でも、アレックスはボールを持ちすぎます。トルシエ君にはそれが耐えられません。だから、アレックスを引っ込めました。次は稲本です。彼はベルギー戦とロシア戦の2得点で一躍日本代表の寵児になりました。トルシエ君にはそれが気に入りません。目立つのは自分だけでいいのです。自分がコントロールできない選手は中田ひとりでもうじゅうぶんなのです。だから、稲本を代えました。代えたのはいいのだけれど、トルシエ君には攻撃のプランがありません。4年前からずっとそうだったのです。日本の選手はこの4年で随分進歩しましたが、トルシエ君はまったく進歩していません。多分、ヨーロッパのサッカーを見たことがないのでしょう。ずっと、アフリカやアジアといった辺境で暮らしていたせいもあるし、勉強が嫌いなせいもあるかもしれません。
アレックスがいなくなった日本は攻撃が機能しません。前半は慌てていたトルコの守備陣も落ち着きました。だって、左右に開くだけのFWより、縦に突破をしかけてくるFWの方が怖いに決まっています。トルシエ君にはそのことがわからないのです。せっかく投入した市川も無駄駒になるばかりです。中田や小野がボールを持っても、日本のFWにパスしたら潰されるだけです。こんな時にアレックスがいてくれたら……トルシエ君の顔は真っ赤になります。なんとかしたいのに、どうしたらいいのかがわからないのです。しょうがないので、彼は森島をピッチに送りだしました。チュニジア戦のように点を取ってくれることを期待したのです。ですが、チュニジア戦と違って、日本の前線にはふたりのFWがいました。中田と小野も点を取るために前に出ています。森島が自由に動き回れるスペースはどこにもありません。
かくして、日本はなにもできないまま敗退しました。
負けても、トルシエ君には屁でもありません。だって、日本はベスト16に進んだのだし、たんまり金をもらったからには、もう、日本などという唾棄すべき黄色人種の国に長居することもないからです。
韓国は選手と監督が一体になって強豪のイタリアを破りましたが、トルシエ君は多分、その試合を見ないでしょう。
以上、邪推終わり。韓国対イタリアを見た人間は、名監督というのがどういうものかわかっただろう。
トルシエなんかを名将呼ばわりしているうちは、日本のサッカーに未来はない。悔しいなあ。
(2002年6月18日掲載)
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